第425号【論説】(12月21日)「最近のカジノ事情」(室伏哲郎)

このエントリーをはてなブックマークに追加
                  2006年12月21日発行 第0425号 論説
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ■■■    日本国の研究           
 ■■■    不安との訣別/再生のカルテ
 ■■■                       編集長 猪瀬直樹
**********************************************************************

              http://www.inose.gr.jp/mailmaga/index.html

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「最近のカジノ事情」

                    日本カジノ学会理事長 室伏哲郎

●マカオがラスベガスを抜いて1位になる

 世界的なカジノの人気の高まりは、アジアや東欧諸国などの経済成長に伴う
観光事業施設の増加に伴い、大きく加速しつつある。

 先ず中国のマカオである。マカオ政庁によると、05年のマカオのカジノの売
り上げは57億ドルで、ラスベガスの売り上げは60億ドル。06年度は、現在のと
ころマカオの成長加速率は18%を越えるから約80億ドル(約9500億円?1兆円)、
ラスベガスは、「市場が成熟しつつあるため大きな伸びは認めにくい」ことも
あって、06年度はマカオが世界の娯楽の中心地ラスベガスを逆転するのは必至
というところだ。

 香港紙によると、06年10月1日の中国建国記念日(国慶節)を挟む9月30日
から10月1日の2日間に、中国本土からの旅客数は、マカオが約42万8000人と
前年同期に比べて8.9%増加したのに対し、香港は逆に8.7%減少し、約
17万3000人となり、明らかに明暗を分けた。

 これに関連して、鳴り物入りで宣伝していた香港ディズニーランドのCEO
(最高責任者)ビル・アーネスト氏は、開場一周年にあたり、初年度の入場者
数が580万人を大分下回ったことを認めた。香港ディズニーランドには、香
港政府が57%を出資している大型公共プロジェクトで、これに引き換えマカ
オ・カジノ・ビジネスの集客力は驚異的とも云えよう。

 試みに年間を通じ、中国本土からマカオへの旅行客は、2000年に227万人、
それが、2005年には1046万人に激増しているのだ。同様、日本でも、昨年は39
便だったマカオへの旅行チャーター便も06年度は既に60便を越え、地元のマカ
オ航空は、関西国際空港?マカオ路線の開設を計画中。

●マカオ繁盛の原因

 2003年春に僕がマカオに行ったときは、マカオはまだ新世紀が半ばで混沌と
していた。大型トラックが行き交い、無数の建設機械類がうなりを揚げていた。
中国政府は、一国二制度という様式を利用して賢明な裁定をしていた。それは、
スタンレー・ホー氏が第二次世界大戦以後一手に握っていたカジノの利権を、
世界の娯楽産業の雄、米国ラスベガスの企業に分ち与えるという思いきった方
策だった。マカオは、従来の伝統的な中国経営者の独占企業スタンレー・ホー
氏率いるSJM、銀河娯楽、ラスベガスのスティーヴ・ウィン氏の率いるウィ
ン・リゾートとカジノホテルのオーナー、シェルドン・アデルソン氏の率いる
ラスベガス・サンズ、米国MGMとバンジー・ホー(スタンレー・ホー氏の子
女)の合弁会社、新豪国際と豪州PBLの合弁会社の6社に行き渡ることに決
まった。

 僕が05年の春に行って見たら、外資系5社の先陣を切って、総投資額20億米
ドル(約2400億円)のプロジェクトの一部としてマカオ半島沿海部にいち早く
堂々たるカジノの殿堂アデルソン氏の「ザ・ザンズマカオ(金沙)」が魔法の
ように誕生し、後続のウィン・リゾートも翌年開業で、刺激を受けた伝統的な
中国のリスボアなどSJMも新機軸でフル操業し、マカオはカジノブームに沸
き立っていた。2005年のカジノ・ビジネスの収入は約500バタカ(約7500億
円)で前年比1.5倍となっている。

 大手ウィン・リゾートは、06年9月上旬、総額12億ドル(1400億円)を投じ
てマカオに建設したカジノホテル「ウィン・マカオ」をオープンした。テーブ
ル・ゲーム200台、最新スロットマシン380台を設置したカジノフロアに
加え、家族連れが楽しめるように娯楽プールやショッピングアーケードも完備
され、シャネルやプラダ、ブルガリといった有名ブランド店、高級レストラン、
スパなどの商業施設を備えている。

 シェルドン・アデルソン氏の率いる「ラスベガス・サンズ」の業績も順調で、
06年11月1日に発表した7―9月期決算報告は、本国ラスベガスの「ベネチア
ン」やマカオの「ザ・サンズマカオ」の好調を追い風に、前年比21%の増益と
なリ、特にマカオカジノの収入は39.8%の激増だった。そのため、米国の「F-
orbes」誌の05年調査によると、「Forbes 400 Richest American」(米国
の大富豪400人)のリストに入る人物としては、カジノ・グループのオーナ
ーであるシェルドン・アデルソン氏が全米3位にあげられている。

●シンガポールの2009年

 シンガポールは長年カジノを禁止してきたが、05年4月、リー・シェンロン
首相は、カジノ解禁を発表し、国内2カ所にカジノが建設されることになった。

「ザ・サンズマカオ」の親会社「ラスベガス・サンズ」は、ハラーズ・エンタ
ーテインメントやMGMミラージュのような多くの競争者を押しのけて、シン
ガポールのカジノ第一号の落札者となった。因みに、落札の採点基準は、観光
客の集客力が40点、建物のコンセプト・デザイン力が30点、投資能力が20点、
企業の財務運営能力が10点の計100点でおこなわれたと云う。「ラスベガ
ス・サンズ」の勝因については、従来の実績MICE(ミーティング・インセ
ンティブ・コンベンション・エキジビション)と、既に進出済みのマカオでの
カジノリゾート開発企業としての強いリーダーシップと存在感が評価されたの
ではないか。

 06年5月、シンガポールの都心に近い新都心マリーナベイ地区総合リゾート
開発運営を同社で落札した。落札額は50億シンガポールドル(円換算で約3590
億円)。

「マリーナベイ・サンズ」と名付けられた同施設は、総床面積57万立法メート
ルの東南アジア最大のカジノ総合リゾートとなる。会議場、展示会場施設は柱
のない宴会場を擁する構造、三つのホテル群、美術科学館、大劇場等を敷地に
建設する計画で、3年後の2009年を目指す。マリーナ湾には、ガラス張りの水
上レストランを建て、世界中から有名シェフのレストランを招くという。3棟
のホテルの屋上に、地上50階の高さでつないで設けられる1万平方メートルの
巨大空中庭園「スカイパーク」も目玉の一つになるだろう。

 同社では、シンガポールを訪れる外国人は、今後中国(14億)に次ぐ11億人
のインド人は無視できないと分析。そこで、「ポリウッド」の愛称で知られる
インド映画界から有名なスターを招いてショーを行うアィディアを打ち出して
いる。

 シンガポール進出の第二号は、06年12月11日にマレーシァのカジノ運営会社
「ゲンティング」にカジノ・リゾート施設建設の許可がシンガポール政府から
おりたことだ。

 このカジノリゾート開発プロジェクトは、「リゾート・ワールド・アット・
セントーサ」と呼ばれ、テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ」のほか、世
界最大の水族館、1830室のホテル、大劇場、ブランド商店街など家族連れで楽
しめる複合施設を2010年にオープンさせる。投資額は約52億シンガポールドル
(約3900億円)。

 シンガポール政府は、2009年2010年に相次いでオープンするカジノ解禁をて
こに、海外国際観光客を2015年までに現在の2倍、即ち1700万人に引き上げる
計画とか。また、観光客単価についてもカジノ複合施設の充実により、同様、
2015年までに国際観光収入を約3倍の300億シンガポールドル(約2兆3000
億円)に拡大させる計画だ。

●世界各地にラスベガス

 カジノを核として、豪華ホテルや有名シェフのレストラン、高級ブランド店、
大型ライブショー劇場などの複合施設を備えた米国発祥のラスベガス型のリゾ
ート施設が、アジア、欧州などで一斉に歩み始めた。世界的な経済成長と金余
りに伴う新たな富裕層の誕生などが背景にある。家族連れでも楽しめて、経済
的効果も大きいところから、各国政府や自治体などは積極的に誘致している。

 アジア地区のマカオやシンガポールについては、概略述べたが、ヨーロッパ
や東欧でも、本場ラスベガスに範をとるカジノを核とするリゾート複合施設は
同様の動きをしている。カジノ業界最大手のハラーズ・エンターテインメント
は、従来ヨーロッパとしては手薄なカジノ施設(人口30万人の大都会にはカジ
ノ禁止)のスペイン。その首都マドリードの南約200キロのレアル市近郊に
約4600平方メートルのカジノ、収容規模3000人の劇場、850室のデラックス
ホテル、レストランなどの商業施設、国際会議場を建設中でこれは2008年に完
成の予定。

 同様、ハラーズ・エンターテインメントは東欧でも比較的文化水準の高いス
ロベニアでも、イタリア国境に近い交通の要衝ノバ・ゴリッツァに、最大1200
室の豪華ホテルや1500台のスロットマシンなどを設置したカジノ、国際会議場、
大型シネコンプレックス等の建設に着手した。これは同国初の大型総合リゾー
ト施設になる見通しで、イタリアやドイツ等からの観光客を見込む。

 アジアや東欧でもラスベガス型のカジノ複合施設建設の動きに併せて、本家
本元のラスベガスでも、全米カジノNo.2のMGMミラージュは総資金総額
70億ドルをかけて本場ラスベガスの大規模な再開発に着手。70億ドルといえば、
民間資金による地域開発としては米国史上最大で、ラスベガスの中心街に高級
ホテル群や高級分譲マンション、レストラン、ショッビング街を含む大型コン
プレックス施設「シティセンター」を建設する。これも2009年末までの開業を
目指す。

 とまあここまでは、当たり前のカジノ複合体建設物語だが、06年12月飛び込
んできたのが、破竹の勢いの世界最大のカジノ大手ハラーズ・エンターテイン
メントが、出資と借入金を組み合わせるLBO(レバレッジド・バイアウト)
方式で入札されるというニュース。ただ今の時点で帰趨は分からないが、ニュ
ーヨーク(ウォール・ストリート・ジャーナル)米投資会社のアポロ・マネジ
メントとテキサス・パシフィック・グループ(TPG)は、大手カジノのハラ
ーズ・エンターテインメント(NYSE:HET)の入札で、一株当たり少な
くとも81ドル(総額150億5000万ドル:約1兆7700億円、その後一株90ドル
に値上げした)で落札する見通しだという。

 スーザン・ストレンジの「Casino Capitalism」ではないが、資本主義は巨
大な空間や人間の営みを、LBO方式で金融商品に換えて、株式買収に買収を
重ねて、その行き着くところは、キャッシュフローが安定した、昔は製造業、
現在はハイテク関係かカジノ複合関連施設ということだろうか。「シティセン
ター」を建設した後の経営陣は買収された後も留任し、現在の戦略を継続する
のだという。

●英国のカジノ事情とオンラインの問題

 英国ではギャンブル法改正で、2007年から大幅に規制が緩和される見込み。
米国のハーラーズ・インタナショナルが、英国紳士がよく通うロンドン・クラ
ブス・インターナショナルの高級カジノ2―4軒を経営するロンドン・クラブ
スを格安の600億円で買収、マレーシアのゲンティングはスタンレー・レジ
ャーの45店を約1400億円で抑えた。これは何を意味するかと云うと、英国は米
国と違い、市中のブックメーカーでの賭けごと(スポーツ、ダーツ等)が何よ
り盛んで、カジノの利用者は僅か5%内外(米国は27%)しか居ないので、マ
カオ、シンガポール、東欧などのカジノを核とした総合複合施設はあまり必要
はなかった。

 しかし、06年秋、米国議会がインターネット(オンライン)賭博を禁止した
ので、10月2日、一連の英国ロンドン株式上場のパーティゲーミングや888
ホールディングス、スボーティングベットなどのオンライン株は一斉に半値に
なった。つまり、米国はラスベガスのようなランドカジノを重視し、米国人に
も愛好者がいるオンラインカジノを追放する政策に出たのだ。ということは、
英国でも、外国企業によるカジノのチェーンの買収、それに続くカジノを核と
した総合複合リゾートの誕生があるかもしれない。

●観光立国オーストリアの台頭

 歴史と芸術の大国・オーストリア。人口僅か800余万人のオーストリア共
和国だが、かつては11の民族を統合し、米大陸やフィリピンにまで版図を伸ば
したハプスブルク王朝が約700年間にわたり「太陽の沈まない帝国」を築き、
ヨーロッパの中心として繁栄していたまぼろしの大国なのである。しかし、ひ
とたびは世界を制覇した恐るべき潜在力を秘めたオーストリアが、21世紀の今
日、再び、不死鳥のように、世界五大陸にまたがる「太陽の沈まない平和の楽
園」建設に再生飛躍し、既に輝かしい成果を揚げつつあることを、世界の、ま
た、日本の多くの人も知らない。

 具体的に云えば、オーストリアは、21世紀の最有望産業といわれる国際ツー
リズムの中核に位置し、一国の文化と歴史の精華が繁栄するカジノ・ビジネス
の分野で、地元のヨーロッパはもちろん、米州・オーストラリア・アジア・太
平洋・中東・アフリカ各地区など全世界17カ国に74カ所のランド・カジノを経
営し、さらに七つの海洋に23隻のクルーズ・カジノ船を運営し、それぞれ見事
に成功を収めているのである。人口800万人、国際観光客1700万人。

 まさに見事に「観光立国」を絵に描いたようなCAI(カジノ・オーストリ
ア・インタナショナル)を中心とした国だけれど、LBOによる「Casino Ca-
pitalism」には最も無縁のような国にみえる国だと思われるがどうだろう。

●日本の課題

 06年6月15日、自民党政務調査会観光特別委員会カジノ・エンターテインメ
ント検討小委員会は「我が国におけるカジノ・エンターテインメント導入に向
けての基本方針」を発表した。現在、カジノ及び娯楽産業に関心をもつ国会議
員は自民党96名、民主党57名。(内定、野田聖子会長)また、カジノに関心を
もつ議員連盟は約150名(萩生田光一議長)。

 日本カジノ学会が誕生して10年。先進国の中で、日本は4周も5周も遅れて
カジノ先進国に追いつくことになった。一国二制度の共産国家中国でさえ、中
国14億の人民の約2億人は中産階級と認識して、元ポルトガル領土マカオにラ
スベガスを創り、大成功し、さらに長年カジノを禁止してきたシンガポールま
でが2015年までにカジノで所得3倍増を現実路線に乗せている。日本は、未だ
にモタモタしてどうなのか? 08年に通常国会にカジノ法案を出そうと云う動
きがあるが、これもどうなるか分からない。嗚呼!

■著者略歴■
室伏哲郎(むろぶし・てつろう) 評論家、日本カジノ学会理事長、カジノ雑
誌『CASINOjapan』・美術雑誌『プリンツ21』の各発行人。雑誌記
者、編集者を経て言論界に。おもな著書に『カジノ産業が日本を救う』(日本
カジノ学会、2001)、『汚職の構造』(岩波新書、1982)、『パチンコ冬の時
代』(毎日新聞社、1997)、『 保険金殺人 心の商品化』(世界書院、2000)
など。ホームページはhttp://www.prints21.co.jp/index2.html

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

■猪瀬直樹のスケジュール

・12月25日(月)、テレビ朝日『ビートたけしのTVタックル』(21:00?)に出
 演します。復党問題、道路特定財源の一般財源化など安倍政権の今後はどう
 なるかを議論します。

・猪瀬直樹が編集長を務める朝日ニュースター
 『月刊ニュースの深層 ラストニュース』(毎月第四土曜日 22:05?)
 次回の放送は12月23日(土)です〈再放送あり〉。
 中川秀直・自民党幹事長をゲストに招き、今年を締めくくります。
 詳しくはこちら。 http://asahi-newstar.com/ 

・本日放送! TBSラジオ『あべこうじのポッドキャスト番長』(19:00?)
 木曜日レギュラーコーナーである「ニュースの見張番」(19:30すぎごろ?)
 に出演。本間税調会長が辞任! 新聞が報じない官舎入居問題の真相とは!?
 
・テレビ朝日『ワイド! スクランブル』(11:25?)木曜レギュラー出演中。
 次回の出演は12月28日(木)、渡辺謙さんと「硫黄島からの手紙」対談の予
 定決定!

・12月25日(月)発売の『スカパー! 110TVガイド』1月号に、2007年の
 日本の行方を解説しています。

・現在発売中の『marie claire』2月号で、来年の政治の見るべきポイントを
 示しています。
 
━━━━◇「日本の近代 猪瀬直樹著作集」全国書店で絶賛発売中◇━━━━

    文学、歴史、ジャーナリズムを志す人びとへ…必携の著作集
         全12巻/各巻予価1300円/小学館刊
        http://www.inose.gr.jp/list/index.html

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
バックナンバーはこちら。 http://www.inose.gr.jp/mailmaga/index.html
ご意見・ご感想はメールでどうぞ。 info@inose.gr.jp
配信解除の方はこちら。 http://www.inose.gr.jp/mailmaga/index.html
まぐまぐの配信解除は  http://www.mag2.com/m/0000064584.html

猪瀬直樹の公式ホームページはこちら。 http://www.inose.gr.jp/

○発行 猪瀬直樹事務所
○編集 猪瀬直樹
○Copyright (C) 猪瀬直樹事務所 2001-2006
○リンクは自由におはりください。ただしこのページは一定期間を過ぎると削
 除されることをあらかじめご了解ください。記事、発言等の転載については
 事務局までご連絡くださいますよう、お願いします。
このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Twitter
  • facebook
  • ニコニコ
  • Newspicks
  • YouTube
  • Note